トワノ・アルボー(Thoinot Arbeau 1520-1595)
Pavane à Quatre parties / 四声部のパヴァーヌ
僧侶のジュアン・タブロ(Jehan Tabourot)がトワノ・アルボー名義で出版したダンスの手引書「オルケゾグラフィ (Orchesographie)」に収録された作者不詳の楽曲。
画像の最下段の声部の「f」の横棒がない形の文字「ʃ」は現在は「s」に転写されます。
「s」と「ʃ」は本来違う発音だったのでしょうね。
因みにドイツ語の「ß(エス・ツェット)は」「ʃ」と「z」が合体した文字でやはり清音の「s」の発音をしますのでこれと同じものなのかなと思ってみたり。
歌詞
- Belle qui tiens ma vie
Captive dans tes yeulx,
Qui m’as l’ame ravie
D’un soubz-ris gracieux,
Viens tost me secourir
Ou me fauldra mourir.- Pourquoy fuis tu mignarde
Si je suis pres de toy,
Quand tes yeulx je regarde
Je me perds dedans moy
Car tes perfections
Changent mes actions.- Tes beautéz & ta grace
Et tes divins propos.
Ont eschauffé la glace
Qui me geloit les os,
Et ont remply mon cœur
D’une amoureuse ardeur.- Mon ame souloit estre
Libre de passions,
Mais amour s’est faict maistre
De mes affections,
Et à mis soubs sa loy
Et mon cœur & ma foy.- Approche donc ma belle
Approche toy mon bien,
Ne me sois plus rebelle
Puis que mon cœur est tien,
Pour mon mal appaiser,
Donne moy un baiser.- Je meurs mon Angelette
Je meurs en te baisant,
Ta bouche tant doucette
Va mon bien ravissant
A ce coup mes espritz
Sont tous d’amour espris.- Plustost on verra l’Onde
Contre mont reculer
Et plustost l’œil du monde
Cessera de brusler,
Que l’amour qui m’époinct
Decroisse d’un seul poinct.古いフランス語のため、歌詞はʃをsに、
また、sとuの区別がないので便宜上現代語での綴りに倣っている模様。
動画では原本の綴りのままにしています。
( )付のf#音は原本には#の指示がありませんが、印刷時に組むとき欠落してしまったと思われるので#としました。
この曲は教会での演奏ではなく、宮廷での演奏を目的とされていたと思いますので、実際の演奏は旋律楽器が各パートをユニゾンで奏でながら各パート一人ずつで歌われ、のちのバロック時代に流行った通奏低音のように、リュートなどを加えて簡単な即興伴奏で音色に彩りを与えたかもしれません。
尚、この曲は多くの本や動画でアルボーの作曲とされていますが、「オルケゾグラフィ 」ではこれ等の舞曲を「時代遅れの今ではあまり踊られないダンス」云々と紹介していることからも当時存在していたパヴァーヌの中で一番知られているポピュラーな曲を選んだもので、彼の作曲である可能性はほとんど低いでしょう。
因みにこのまえアップしたパヴァーヌの原曲になります(*^_^*)
(7月31日追記)
コントラ・テノールというパートは英語でカウンター・テナーのことで男性が歌う高音域=アルトの音域を指します。当時はファルセットではなく、男性の変声期前の少年または少年期に去勢しその音域を維持した男性が歌っていました。ファルセットとは違って豊かな表現力が可能ですが、「虚勢までして維持する必要があるのでしょうか」と思うのは現代人の勝手な理屈なんだろうか。
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