3拍子と9拍子

9拍子といえばリズム的には3拍子としてリズムを取ります。

どういう理屈かといえば、以下に3拍子と9拍子を比較してみたとおり、譜例では1拍を4分音符とするか、付点4分音符とするかの違いがあるだけで、どちらも演奏結果は同じになり、どちらも拍子は3拍子系です。
6拍子、12拍子も同じ理屈になりますね。

動画は9拍子の実例で、つまり1拍を付点4分音符(8分音符3つで1拍)とした3拍子で、9拍子は3拍子系であることがわかります。

基本的に3拍子と9拍子、どちらで記譜しても差し支えない曲の場合、どちらが楽譜を書くあるいは読む時にシンプルか?で選択していいと思います。結果が同じならば!

但し、曲を作っていく過程で明らかにリズム感の違いを実感できるでしょう。

おまけ

ここからは西洋音楽史的な余談なので興味のある方だけ読んで下さい。

バロック時代やルネサンス時代より古い中世の時代には黒符計量記譜法や白符計量記譜法など様々な定量記譜法が開発されました。現在の楽譜では音符を細かくするときに原則として常に二分割で行われます。それ以外の分割には3連音符とか5連音符などの連符を用います。

計量記譜法では分割法が予め決められていて、それぞれを音符の分割法を表す記号で明示しています。
つまり二拍子も三拍子も同じ分割法なら同じ記号です。

拍子記号がなくても舞曲などで何拍子なのかは楽譜を眺めたら自然にわかるので分割法の指示だけで良いことになります。

この記譜法ではbrevis(二全音符=倍全音符)とsemibrevis(全音符)との関係をテンプス(tempus)、semibrevisとminima(二分音符)との関係をプロラティオ(prolatio)といい、3分割を完全、2分割を不完全としてその組み合わせに対応した記号が定められました。

3分割の方を完全と呼ぶのは宗教的な意味合いに由来していて、3という数字はキリスト教の三位一体さんみいったいを象徴する完全な数字だったからと言われています。
(ブレヴィス、セミブレヴィス、ミニマは現在の記譜法では上の譜例のように、それぞれ二全音符、全音符、二分音符に該当します)

特に完全テンプス完全プロラティオに至っては3x3なので完璧な分割法でした。この時代に完全テンプス完全プロラティオが多かったのはそういう背景です。

またこれらの記号に縦線が入っているものは音価が半分になることを示しています。
(現在はCに縦線を入れたものだけAlla breveとして残っていますね。)

現在の記譜で4/4拍子をCと書くことが多いのは、ルネッサンス時代あたりから3分割法から2分割法に移り変わった時に不完全テンプス不完全プロラティオと2拍子系が合致するので意味は変わってしまいましたがその名残として残っています。
(つまり現代の記譜法は不完全テンプス不完全プロラティオだけが生き残っています)

以下はこの分割法の違いを利用して楽譜を異なった分割法にる演奏を同時行うプロラティオ・カノンという手法でヨハネス・オケゲムによって作曲された「ミサ・プロラツィオーヌム」から「キリエ」です。
これは二重カノンで、上声部2つが一つのカノンで、下部2声部も別のカノンになっていて、それぞれ同時に演奏が開始されることで分割法の違いからズレが生じることによってカノンを実現しています。


こちらは円と半円が書かれた記号が並列していて、それぞれ記号が示す分割法で同時に歌い始めます。


こちらは円と半円の中心に点が書かれた記号が並列していて、それぞれ記号が示す分割法で同時に歌い始めます。
そのようにして合計4人で同時に歌うと以下のようになります

コンピュータのない時代にこんな幾何学的な曲を作るなど、とても人間の仕業ではありません。

コメント

  1. 只見つづり より:

    仕事が早い!
    早速、リクエストに応えていただき、ありがとうございます。
    良くわかりました。
    8分の9拍子は、付点四分音符が三つで、三拍子になる、でいいでしょうか?8分の6拍子は二拍子、というように。
    おまけの記事もブログらしくて素敵です。昔の人ってどうやって作曲したのでしょうね。すごいですね。
    もう一つ、疑問があるのですが、6拍子9拍子12拍子があるなら、5拍子とか7拍子とかもあるのでしょうか?
    そんな変則的な曲って、どんなのでしょうね。
    クララさんなら、きっと、曲を聞いたら何拍子かわかるのでしょうね。とにかく、ありがとうございました。

    • Clara より:

      > 8分の9拍子は、付点四分音符が三つで、三拍子になる、でいいでしょうか?8分の6拍子は二拍子、というように。

      そのとおりです、あくまで9拍子、6拍子はそれぞれ3拍子、2拍子ということで^^;

      > 5拍子とか7拍子とかもあるのでしょうか?

      当然有ります(笑)
      実はこのページの動画の「6つの小品」の2曲目がほぼ5拍子で作られています =^ ^=

      > 曲を聞いたら何拍子かわかるのでしょうね。

      どうなんでしょうね。◯◯拍子系とは分っても、実際に楽譜を見ないと分母が分かりません。私ならこの曲は1拍は◯分音符使うかな?と思って当てずっぽううで当てるしかヾ(ーー)ォィォィ
      、あと調性も長調・短調あわせて24しかないので、なんとなく理解ります^^